「あなたの心に…」

最終章




Act.56 彼氏彼女の証を

 

 

「ああ、気持ちよかった。
 でも、どうして成仏しなかったんだろ。
 私、そのつもりでママに抱かれたのになぁ」

 マナが不思議そうに言った。
 
「ちょっと!アンタ成仏するつもりだったのっ?」

「アスカ、うるさいわよ」

 ママのお小言なんか聞いちゃいない。
 私はマナに詰め寄ったわ。

「じゃ、私の身体の中に入ったまま成仏しちゃおうとしたわけっ!信じらんない!」

「だってぇ、アスカの身体に乗り移って、その上ママに抱っこされてるんだよ。
 思い残すこと何もないじゃない。そのままふわっと消えてしまっていいって…」

「そんなのダメよっ。お別れの挨拶も何もしてないじゃない」

「アスカ。あなた、全然気がついてなかったの?マナが昇天する気持ちでいたことに」

 ぎくっ。
 ママの顔を見る。
 わ、ちょっと怒ってる。

「じ、じゃ、ママは知ってたっていうの?」

 答はわかってるけど聞かずにはいられない。

「当たり前じゃない。
 アスカはまだまだ修行が足りないわね。人生修行が」

 しらっとした表情であっさりと言ってくれる。
 はいはい、私はまだまだですよ〜だ。
 私はママにいいぃぃぃ〜と歯を剥き出してやった。

「まあ、下品ねぇ。シンジ君が見たらやっぱりこんな変な女の子はイヤだって言わないかしら」

「げっ…。あ、そ、それは大丈夫よ。傍にいた女の子がマナだったんだから」

「うんうん、下品なのは私で慣れてるから…って、何言わせるのよ、もうっ」

 例によってふざけるマナ。
 ああ、ホントにマナが私の妹だったらなぁ。
 恋敵っていうのは絶対にダメだけど、妹ならOKよ。ノープロブレム。

「でもさあ、…えっと、質問いい?」

 あ、ママが吹き出した。
 いきなり訊こうとして思い出したのよ、さっきのマナのパニックを。
 
「うん、いいよ。成仏のこと?」

「そう、それよ」

 落ち着いて笑ってる。
 これなら訊いてもいいよね。

「マナってさ、成仏の方法知らないの?」

「うん」

 あっさりと答が返ってきた。

「ホントに?」

「うん、全然わからない」

 にこにこにこにこ。
 マナはママの膝で笑ってる。
 私はママの顔を見たわ。
 ママにマナと同じようにニコニコ笑ってるだけ。

「神様は何て言ってたのよ」

「へ?私、神様とか見たことないよ。会ったことがあるのは幽霊だけで、そいつらとは話したこともないし」

「幽霊って墓地とかで見た浮遊霊っての?」

「そうそう。あの連中陰気だしさ、相手したくないのよ」

「それじゃ、あれは嘘だったの?私とし、し、シンジがこ、こ、こ、…」

 これは言い難い。
 だってママの目の前なんだもん。

「恋人、ね」

「うっさいわね、間を取っただけよ」

 嘴を挿んだママを睨みつける。
 ああ、恥ずかしい。

「ううん、それは本当だよ。シンジが最高の女の子と恋人になったら成仏するっていうのは」

「誰に教えてもらったのよ。神様にも会ってないっていうのにさ」

「う〜ん、それはわからないけど、とにかくそれで成仏するっていうのは間違いないのよ。
 頭の中にそれだけが張りついてるっていうか、何ていうのか。うん、絶対にそう」

「何が絶対よ。現に違うじゃない。私とシンジはそ、そ、そうし…」

「相思相愛」

「わかってるわよ、ママ!舌がこんがらがっただけよ」

 と、ひとまず嘘をつく。恥ずかしくて口ごもったなんて言えるわけないじゃない。

「その相思相愛になったのに、アンタ何にも起こらないじゃない」

「うん、それなのよ。不思議よね」

「あ、わかった」

 ぽんと手を叩く音。
 私とマナはさっとママの顔を見たわ。
 さすがはママ。
 
「それはアスカが最高の女の子じゃないってことじゃないかしら」

「ははぁ、なるほどそうなんだ」

 ……。
 こ、こ、この二人はもうっ!
 
「二人ともっ!」

 立ち上がった私は腰に手をやり大地に足を踏みしめ天空に吼えたわ。

「私がっ。この惣流・アスカ・ラングレーただ一人がっ。
 シンジにとってこの広い大宇宙の中で最高の女の子なのよ!」

「おおおおっ」

 ぱちぱちぱちぱち。
 音がするママの拍手と、無音のマナの拍手。

「アスカ、凄い自信」

「自惚れじゃなければいいんだけど」
 
「ふんっ、何とでも言えばいいわ。い〜い?
 この私以外の女が碇シンジの妻にはなることは天地がひっくり返ってもありえないのよっ!」

 そっけない母と娘に私は音量を度外視して叫んだわ。

「お〜い、お客さんやで」

 大見得を切った私の背中にパパの間の抜けた声。

「お客さんって誰に?」

「アスカや。綾波さんって言うとるで」

「えっ、レイ?」

「わっ、敵襲?」

「もう、マナは。レイはシンジの妹なんだってば。説明したでしょ」

「あは、そうだった」

「で、お通ししてもええんか?」

「うん、いいよ。マナのことも知ってるし」

「さよか。ほな…」

 一瞬引っ込んだパパの顔がまた扉から覗く。

「ちなみにさっきのアスカの大見得。お客さんにも丸聞こえやったで。
 お腹抱えて、くすくす笑っとった。器用なもんや」

「ああ、もうっ。わかったわよ」

 くはっ、レイに聞かれちゃったんだ。恥ずかしい。

「それからもうひとつや」

「何よっ」

「結婚するのは20代やで。10代は許さへんからな」

 敵の動きは早かった。
 枕を投げつけた時にはもうにやついた顔は引っ込んでいたわ。

「よかったわねぇ、アスカ。パパのOKもらえたじゃない」

「ふん。どうせ正式に紹介したときには機嫌悪くなるに決まって…いたっ」

「ハインツの悪口をいうのはこの口?」

「いははは。ほえんなはい、ままあ」

 ああ、痛かった。
 ホントにこの人はパパのことになると家庭内暴力をすぐ振るうんだから。
 


「ちょっと、レイ。何か言いなさいよ」

 部屋に入ってきたレイはむっと口を結んだままマナを睨みつけている。
 マナの方も負けるもんかと睨み返す。
 って、わざと空中に浮かばないでよ、マナ。

「アスカ、私やっぱりコイツ気に食わないわ」

「マナ」

「だって、世間が許したら絶対に実の兄と結婚するつもりだったのよ、この女は」

 あわわ、何てこと言うのよ、マナは。

「ふん、自分だって幽霊の癖に可能だったら碇君と結婚するでしょう?」

 ぼそぼそと呪詛のように呟くレイ。
 もう制服を着替えてる…って、私は制服のままじゃない。

「くわっ、私はそんなことしないもんっ」

「私だってできないわ」

「ちょっと二人ともぉ」

 頭を抱えたくなったその時、タイミングを計ったように二人が同時に笑った。

「仕方ないわね、似たもの同士ということで許してさしあげます」

「そうね、いい思いをするのはアスカだけなんだし」

 こくんとうなずくレイ。

「ねぇ、アスカって酷いわよね。一番最後にシンジへの気持ちに気づいたくせに」

「そう。スタートで大転倒したのに、いつの間にか先頭でゴールインした」

「要領がいいっていうのかねぇ」

「ずるいわ」

「あのねっ、アンタたち!」

 ぎろり。
 我慢の限界で叫んだ私は4つの瞳で睨まれた。

「アスカはずるい」

「あ、あのね、お二人さん?」

「アスカはずるい!」

 さらに声を励まして言わないでくれる?
 まったく、共通の敵を見つけたみたいにさ、声を合わせてくれちゃって…ん?あれ?

「あのさ、マナにレイ?アンタたち…」

 何よとばかりに私を睨みつけてくる。

「今気づいたんだけど、マナとレイの声って似てるわよ。うん、そっくり」

「似てないよっ」「似てないわ」

 口調は全然違うけど、やっぱり似てる。
 二人とも認めたくないようだけど、これはこの後カラオケ大会に突入したことで実証されたわ。
 ママもパパも声質がそっくりだって口を揃えたもんね。
 3時間ほど喉が嗄れるまで歌って、それから私の部屋に引き上げる。

「ああ、喉がからから。コーラが美味しい」

「いいなぁ、私も飲みたいなぁ」

「いくら歌っても大丈夫なんてずるい」

 恨めしげにマナを見るレイ。
 よかった。もうしこりはないみたい。

「でも、明日が楽しみね、アスカ」

 レイがくすくす笑った。

「何よ、その変な笑い方は」

「私、ここに来る前にお兄様の…」

 レイのヤツ。
 お兄様ってとこだけ声を大きくするのよ。
 嫌味ったらしく。

「お兄様のお部屋に寄って来たの。すると、お兄様ったら奇妙な踊りをされていたの」

「その変な丁寧語やめてくんない?で、その奇妙な踊りって何よ」

 やっぱり気になるわよねぇ。

「楽しそうにフォークダンスみたいな社交ダンスみたいな盆踊りみたいな」

「目茶苦茶じゃない」

「そう、目茶苦茶。その上、浮ついた声で合いの手を入れていたの」

「何て何て?」

 マナも興味津々だわ。

「それがね、やったぁ、アスカが僕の彼女だぁって」

 ぼふっ!
 不意打ちよ、不意打ち!
 瞬間湯沸かし器なんて目じゃないくらいのスピードで私の顔は真っ赤っか。

「わっ、アスカ真っ赤」

「そう、碇君…じゃない、お兄様もアスカと同じくらいの速度で同じくらい赤くなったわ」

「そ、そ、それは、仕方ないじゃない…って、レイっ!アンタ、覗き見したのねっ!」

「ふふ、こっそりと」

「ピンポンも押さずに入るなんてダメじゃないっ!」

「だって、鍵が掛かっていましたもの」

 レイお得意のアルカイックスマイルが炸裂したわ。
 
「か、鍵って」

「透り抜けたの?」

 馬鹿マナ。
 そんなことができるのは幽霊のアンタくらいでしょうが。
 レイは律儀にふるふると首を横に振り、微笑を深くした。

「私、合鍵を持っていますから」

「げっ、シンジが渡したの?」

 まあ、レイは腹違いとはいえ妹だし、親近者が合鍵を持つのはおかしくないわよね。

「いいえ。つくりました。こっそり」

 唖然。
 開いた口がふさがらないってこのことよ。
 
「いか…いえ、お兄様は驚かれていたわ」

「当たり前じゃない。誰もいないって思ってるからこそ…」

 ああっ、嬉しい。
 私だって踊りたいわよ。
 マナたちがいるからできっこないけどさ。
 私は手を突き出した。
 掌を上に向けてね。

「何、この手?」

「よこしなさい。鍵」

「ええ、どうぞ」

 レイはあっさりとポケットから鍵を出して私の掌に乗せる。
 へぇ、素直。

「なぁんだ、いやだって言うんだと思った」

 不満そうなマナにレイはにっこりと微笑んだわ。

「うふ、まだ2本ありますから」

「こらっ、レイ!」

「まあ、い…お兄様は明日にでも鍵を付け替えるって大声出してましたから、
 この鍵も無駄になるわけですが…」

 ああ、そうですか。
 いやにあっさり鍵を渡すと思ったら。

「でも、アスカ。今宵がチャンス。まだその鍵を使えるから」

 囁くレイの頭を私はこつんと叩いてやった。

「あのね、夜這いけしかける小姑がどこにいるのよ」

「あら、そこの死に損ない…失礼、昇天し損ないを成仏させるいい手だと思いましたのに」

「ふえっ?」

「な、何ぃっ?」

 レイはまたアルカイックスマイルで私たちを見ている。
 
「アスカが夜這いしたら私、成仏できるの?」

 私は天井を仰いだ。
 適当なこと言わないでよ。

 だけど、レイの説明を聞いて私たちはなるほどと思っちゃったの。
 私とシンジが相思相愛になったといってもそれはあくまで本人同士の主観に過ぎない。
 他人が見てもわかるような証が必要なのだと。

「で、夜這い?」

「あれは冗談」

「なんだ、がっかり。アスカを手引きしようと思ってたのに」

「こら、マナ」

「私も冗談」

「まったく…。アンタたちの冗談はわかりにくいのよ」

 私は溜息を吐いた。
 いくらなんでも、いきなり夜這いはないよね。
 まあ、いずれは…って、何考えてんのよ、私は。

「夜這いはともかく何か恋人の証を立てればこの幽霊さんも浮かばれるのではありませんか?」

「証って…例えば?」

「恋人届…なんて役所や学校に提出なんかしないよね」

「馬鹿マナ」

「キス…」

 マナと馬鹿なやりとりをしていたら、ぼそりとレイがそう言ったわ。

「へ?」

「あっ、それよ、それ。アスカ、ぶちゅうっと一発!」

「やっぱり、キスね。御伽噺でも王子さまのキスは定番だもの」

「ここは日本よ。浦島太郎や桃太郎にキスシーンなんかないじゃない」

「それを言うなら金髪に青い眼のお姫様なんか日本の御伽噺にはちっとも出てこないわ」

「おお」

「アスカがヒロインなんですから、ここは西洋の御伽噺でいいんです」

「ははぁ、なるほど。それもそうよね」

 マナはすっかりレイのペースに巻き込まれている。
 何たって単純なんだから。
 私と違って。

「それよりもマナ。アンタ、ホントにいいの?」

 きょとんとした顔でこっちを見るマナ。
 
「何が?」

「何がって、その…成仏。したくないんじゃないの?」

「ああ、それね。ありがとう、心配してくれて」

 マナは透き通るような笑みを浮かべた。
 これまで見たこともない、それはそれは綺麗な笑顔だった。

「このままこっちにいたいのなら…」

「アスカ、大丈夫。私、成仏したいの。あ、本気だよ」

「それって、私たちのためにとかじゃないでしょうね」

「あは、外れ。あのさ、このままこの世界にいて、浮遊霊になって、アスカたちをずっと見ていくんだよ。
 もしかしたら、幸福に暮らすアスカたちが妬ましくなっちゃうかもしれないじゃない」

 確かにそれはそうかもしれない。
 10年、20年、生きている人間を羨ましく思う時だってあるだろう。
 
「しかもさ、アスカたちは歳を取っていくんだよ。
 大人になって、結婚して、子供ができて、笑ったり、歓んだり、喧嘩したり…。
 私はそんな時間を一緒にすごすことができないの」

 淡々と喋るマナ。
 私は一言も口を挟めなかった。

「私はいつまでたってもこの身体のまま。
 アスカがおばあちゃんになっても、ずっと12歳のままなんだよ。
 そして、最後には…」

 マナは寂しげな笑みを漏らす。

「みんな死んじゃって、私はひとりぼっち。
 私のことを覚えてくれてる人がこの世にただ一人いなくなっちゃっても、
 それでも私はここにこのままの姿で留まらないといけないの。
 私、そんなのイヤ。絶対にイヤ。イヤなのっ!」

「マナ…」

 マナは顔を覆ったわ。
 ああ、こういう時はホントに困っちゃう。
 実体のないマナを抱きしめることができないんだもん。

「ひとりぼっちになるより、私って人間が生きていたってことを覚えてもらってる方がいい。
 アスカがおばあちゃんになった時に、そういや昔変な幽霊と友達になったなぁって思い出してくれる方がいい。
 私、その方が幸せになれる」

「馬鹿マナ…。私をおばあちゃんにしないでくれる?」

 やっと言えたのがそんな言葉。
 ああ、私の方が馬鹿アスカだ。
 こんな半畳なんて入れるところじゃないのに。

「へへ、ごめんね。まあ、そういうとこなの。
 だから、私、いま、成仏したいの。
 今が一番幸せかもしれないから」

「マナったら…」

「そういうこと。だから成仏させてあげた方がいいの」

 簡単に言わないでよとレイに噛み付こうとしたけど、
 その赤い瞳が潤んでいるのに気づいて…やめた。
 レイはレイなりに考えてくれてるんだ。

「どう?アスカと…お兄様がキスしたら成仏できるでしょう?」

「うん、そんな気がする」

「ちょっと、アンタたち。そんなのどうして言い切れるのよ」

 話はどんどん私とシンジがキスする方向へと向いている。
 そ、そりゃあ、私だってシンジとキスしたいけど…。
 それとこれとは…。

「アスカ。けじめをつけさせて」

「え…」

 この時のレイは途方もなく真剣だったの。
 
「私は本気で好きだったのよ。
 それをあきらめてあげるのだから、それなりのことはしていただくわ」

「それなりって、それがキスなのっ」

「はい、キス。私の見てるところでして下さい」

「な、な、何をっ!ファーストキスなのよ!どうして観客付きでっ!」

「仕方がないじゃありませんか。幽霊さんのカモフラージュです」

 ああ、レイの顔。
 梃子でも動かないって感じの顔。

「私に乗り移っていたら、お兄様に露見しないはず。
 アスカ、あなたは幽霊さんのお姉さんなのでしょう?
 覚悟を決めなさい」

 覚悟を決めさせられた。
 最後にはママとパパにも説教されて。
 酷いと思わない?
 夢のファーストキスはレイの目の前で。
 しかもシンジが反対したら私が無理矢理その唇を奪わないといけないのよ。
 私って…。
 ……。
 とりあえず、マナのためにってことだけは納得した。
 いや、納得しないと仕方がなかったのよ。
 だってさ、マナは真剣に成仏したいって願ってるんだもん。
 
 ただ心配なのはシンジが私のことを嫌いにならないかってこと。
 キスをねだるだけならまだしも、レイの監視つきでファーストキスをするだなんて
 どう考えても異常よね。
 はぁ…。
 でも、しないとどうしようもない。
 嫌いになんかなんないよね、私のことを。
 ねぇ、シンジ?
 
 その夜、マナは私の前に姿を見せなかった。
 午前2時を過ぎてもまったく。
 変に気を回しちゃって、あの馬鹿…。
 はっきり言って一人にされちゃって余計に落ち着かないのよね。
 確かにキスへのどきどきもある。
 そのことを考えるとほっぺが熱くなって胸がばこんばこん言うもん。
 でも、ごめん、シンジ。
 そんなのは長い時間じゃないの。
 すぐにマナのことを考えてしまう。
 マナ…。
 出ておいでよ。
 私、話したいことがいっぱいあるんだよ。
 ううん、話したいことじゃない。
 マナのこと。
 マナが生きてきたこれまでのこと。
 幼稚園の頃。小学生の頃。
 シンジに聞けばいいってことじゃない。
 あの子の目で見た話を聞きたいの。
 遠足の日に見た空の色とか、お出かけして食べたご馳走とか。
 くだらなさそうな話でも本人にとっては素晴らしい思い出のはず。
 私だってそうだもん。
 マナだって、きっと…。
 あ、そうだ。
 いい考え。
 これって可能なのかな?
 もし可能なら、凄くいいアイディアよね。

 マナ、喜んでくれるかな?
 喜んでくれるよね。

 私は、その思いつきに胸を温かくさせ、そしていつの間にか眠ってしまった。

 

Act.56 彼氏彼女の証を  ―終―

 

 


<あとがき>

こんにちは、ジュンです。
第56話です。最終章の中編になります。
もう何も語れません。いよいよ、次回は『最終章』後編です。